父と母は歳の差結婚で、しかも俺は、母が歳をとってからの子どもだ。兄貴とは13歳も離れていて、家で会ってもほとんど口を利かないし、そもそもあまり会わない。実家はまあまあのお金があるらしく、小さいながらもマンションを持っていて、最上階に実家、自分はマンションの部屋を1つ、独占して自室として使っている。食事や入浴は実家で入るので、自室の風呂場は物置として、スキー道具やその他もろもろをしまっている。物心ついた時から両親が歳をとっていて、特に親父はおじいちゃんと思われてもしかたないくらいの年齢だったから、密かに学校の保護者参加行事は嫌だった。
そんな親父は、俺にバレていないと思っているだろうが、思いっきりズラだ。強風が吹いてもずれたりしないのでよくできたズラだとは思うが、いつも不自然に黒々としている髪の毛は全く長さを変えず、近くで見るとリカちゃん人形の髪の毛みたいな材質に見えるから99パーセントそうだ。そんな親父だから、親父の部屋にあるゴツイ金庫の中身が超気になる。
母に聞いてみても、親父は謎の多い男だ。何をやっているのかよくわからないが、とりあえず昔から金回りは良かったようだ。今では不動産収入だけなのかもしれないが、親父の部屋のあの金庫の中には、まだお宝が眠っているんじゃないか、俺はそう思っている。なにせ、母にすらズラ使用のことを隠している親父だ。当然金庫の中身のことも母には話していない。でも俺が意識しだして観察するようになってからも、金庫のダイヤル部分が微妙にずれていることから、金庫を開閉していることは間違いない。
このマンションの権利書とか、そういう類のものも入ってはいるだろうが、あれだけの大きさの金庫だ。書類だけじゃなく何か、目に見えてキラキラしたものが入っているんじゃないか。そんな風に思って気になっている。